楠本 貞愛(KUSUMOTO Teiai)
国内ショートプログラム(自己開拓型)において、京都北山にある老舗焼肉店「南山」に併設されている「自家自炊コミュニティnalba(ナルバ)」と連携し、「“創る”が繋げる絆」をテーマに4日間のワークショップを開催しました。
食を中心とした地域子育てのハブで、若い世代にどのような学びを期待しているのでしょうか。代表理事の楠本貞愛さんに、プログラムの中で取り組んだことや学んだこと、気づいたことなどを語っていただきました。
「食」を中心とした子どもの居場所づくり
私の父はカトリックの伝道師でしたが、誰かに食事を提供して喜んでいただくという下座の行為に尊さを見出し、1965年に、まったく何の経験もないまま飲食店を創業したんです。家庭を支える母親も苦労が多かったと思いますが、みんなが生きること、食べることに一生懸命な時代だったから、例えばお兄ちゃんがご飯を作って、妹がお皿を洗って、弟が赤ん坊の面倒をみて…というように、一人ひとりが自分の役割を認識し、家族を形成する力を持っていたように思います。
私自身、父親の会社を引き継ぎながら、児童養護施設から里子を受け入れるなど6人の子どもを育て上げ、母親として随分鍛えられました。振り返れば、もっと子どもたちに寄り添っていれば、力になってくれる人に助けを求めていれば…と自省することも少なくありません。
今、習い事やクラブ活動で子どもたちは忙しく、家族みんなが揃ってご飯を食べる機会も少なくなっていますね。こんな時代だからこそ、私たちが南山で培ってきた強みを活かして、食を中心とした子どもが子どもらしく過ごせる居場所づくりができないかと考え、2018年に「さとのやま保育園」を、2021年には小学生や中学生の自家自炊コミュニティ「nalba(ナルバ)」をオープンしました。子どもたちが持っている「生きる力」を育むために、料理をしたり工作を楽しんだり、多様な自主的プログラムを通して、大人目線ではなく、子どもの主体性を100%肯定するという場を作っていきたいと思っています。
世代を超えたチャレンジが成長につながる
社会実践力育成プログラムでは、京都精華大学の学生さん2名に4日間、nalbaのワークショップに参加してもらいました。こども家庭庁では、大学生を含めて社会的に自立する年代までを「こども」と定義していますが、あと少しで大人になる学生さんが小学生や中学生と同じ時間を過ごし、自分たちで作ったご飯を食べ、一緒に後片付けする…。将来、日常の暮らしのベースになっていく経験を重ねることで、一人ひとりが家庭を作る力、他者と共に協働する力を身につけてほしいと思っています。
ワークショップは、学生さんが中心となって自主的にいろんな企画を提案してくれました。今回、いらなくなった生地を持ち寄って、自由にアレンジやリメイクを楽しんだのですが、小さな子どもたちがイメージしやすいように事前に見本が用意され、針や糸ではなく安全面に配慮して裁縫のりを使うなど、子どもたちの目線に立った念入りな準備に感心させられることも多かったですね。古いズボンやシャツを布で飾ったり、ワッペンを作ったり、チャックで口が開閉できるマスクを作ったり、子どもたちの想像力がかき立てられ、クリエイティブな刺激につながったのではないでしょうか。
大学連携の取組を通して、大学生も共に成長していける場にしていきたいと考えています。どんな料理を作ったか、どんな作品を作ったかというのではなく、子どもたちの心を動かすという貴重な経験が、これからの学生さんの人生において大きな糧になっていくに違いありません。
大学のまち・京都の強みを活かした地域づくり
京都は大学のまちで、多様な個性を持った学生さんがたくさん学んでいます。これからも幅広い年齢の若者を巻き込んで、地域が元気になるプログラムを実践できればと思っています。
例えば、小学生と一緒に高齢者にSNSの使い方を教えるなど、大学生が自分たちの持つスキルや得意を活かすことで、世代をつなぐ役割を果たしてほしいと思いますね。
今、スマホ一つあれば、簡単に知識が手に入るようになりました。では、私たちが社会から求められている力とは何でしょうか? 社会実践力育成プログラムにおけるいろんな人との関わり合いの中で、一人ひとりがその答えを見つけ出してもらえればと思っています。