SOCIAL PRACTICAL SKILL DEVELOPMENT PROGRAM

自分で見て、考えて、学ぶ

前田 茂(MAEDA Shigeru)

国際文化学部 人文学科 教授

ウィンダム・ルイスとヴォーテシズム

20世紀前半に活動した画家であり作家でもあったウィンダム・ルイスについて研究・調査を行っている前田先生。現在は、彼が主導した英国で最初の前衛美術運動といわれるヴォーティシズムに関する研究を進めている。

前衛である、ということの条件の一つにマニフェストがあるということがあげられる。例えばシュールレアリスム宣言など、20世紀に入ってメディアを使って自分たちの活動を広く大衆に知らしめたことが特徴だ。

ルイスも例外ではなく、機関誌『ブラスト(Blast)』を刊行し、そのなかでヴォーティシスト宣言を発表したという。「当時としては、まず表紙の色がピンクである、ということが衝撃的で、さらに特殊なタイプフェイスを使うことで、当時のイギリスの“良き趣味“に対して、それではだめだと宣言したんです」。第一世界大戦が間近に迫る時局に対して、芸術家側からも応答をしなくてはいけない、という危機意識がルイスにはあったのだと、先生は語る。

雑誌ブラストの誌面は、新聞や広告などのレイアウトが採用されており、少し独特な内容となっている。これは、メディアを通して自分たちの活動を明らかにしていくという、前衛芸術の手法でもある。「当時流行したイタリアの未来派を警戒して、パロディで作った雑誌なんです。似たようなスタイルで出版することによって、何かがおかしいことを大衆に気づかせようとしたんです」と前田先生。未来派は大衆を動員し、全員を同じ方向へ向かわせようとするファシズムの出発点となった芸術運動。ウィンダム・ルイスは、大衆の感覚に訴えかける芸術というメディアにある種の警鐘を鳴らしたのだ。現代ではマーシャル・マクルーハンのおかげであたりまえとなった「メディア」=「コミュニケーションのメディア」という考え方を、彼はかなり早い段階で意識していた。とはいえ、当時、ファシズムに対する警告はパロディのような形でしか表現できなかった。

「皮肉と取って良いのか、大衆に理解してもらえなかったんですね。結局、彼自身が発達するメディアを上手くコントロールできなかったんです」。その後、当時徹底的に悪だとされていたナチズムに対して宥和政策を唱えたことで、ウィンダム・ルイスは歴史の影に消えていった。が、現代でも彼のファンは多く、同時代のヨーロッパ美術と比べてもひけをとらない抽象美術への反応など、再評価されるべき側面はけっして少なくない。

芸術家と思想

ルイスは、文章だけでなく芸術家として絵も描いている。

ロンドンの帝国戦争博物館が所蔵する「A Battery Shelled」という絵画は、前線へと動員され、訳もわからず働かされている大衆をヴォーティシストのメンバーたちが見ている…という構図で構成されている。明らかに写実的な人物表現と、かなり抽象的な人物表現を対比することで、大衆自身が未来派の称揚する感覚とスピードの奔流に巻き込まれて砲弾と同等の存在になっていることを客観視できるように促しているのだ。「今でも、『アート』と名のつくものは全部いい!みたいな風潮はありますよね。要するに、アートのように感覚的なものを使って、人をある一定の解へと誘導するような。ルイスは思想家と芸術家の両方の視点をもっていたので、思想そのものの善悪がどうというより、思想に芸術作品が利用されることに異議を唱えたのです」。前田先生は、そういった考えに非常に共感できるので奥が深いと、ルイスの研究について楽しそうに語る。

台東区という場所で学ぶこと

前田先生は、社会実践力育成プログラムにおいて、国内ショートプログラム(東京都台東区)“東京都台東区調査−東京のいまむかし−”を担当している。「僕が東京に住んでいることもあって、学生さんには台東区に行ってみてもらおうと考えました」。台東区には、東京大学や東京藝術大学、また上野動物園や浅草、少し繁華街からそれると中国やインド出身の人たちが営む屋台やお店がある。歴史的にもかなりバリエージョンのある街で、学生はおよそ3人1組のグループとなって、1週間滞在し、人々や店を取材。最終的には一人一つのテーマに沿ったA3サイズの観光マップを作る。

座学で学んだことをどうアウトプットするのか?それは、目的が明確に定まっていないと難しい。インプットの段階からアウトプットについて考えることで、ものを作るプロセスを見渡す視野を養うことができるのだ。「学生さんのほとんどは卒業後、会社に勤めます。自分の前の工程の人が何をしていて、次の工程の人が何をするのか。そういったことが見えていないとものづくりはうまくいかないので、この授業を通してそういった意識ができるようになれば」と、前田先生は微笑む。

今年卒業する学生は、コロナの影響で入学時から遠隔授業を主とした授業を受けてきた。実際に人と会うことを前提とした科目を用意できないか…。「働くようになったら職場と家の往復の繰り返し。そうじゃなくて、少し寄り道をするのも楽しいものです。キャンパス内だけで完結しない大学生活っていうのも悪くないし、いろんなものを見て感性を養うことはいくつになっても大切だと思います」。

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