野村 伸介 (NOMURA Shinsuke)
デザイン学部 プロダクトデザイン学科 プロダクトコミュニケーションコース
“視野”を広く持つ人材
プロダクトデザイナーとして、幅広い知識・技術を持つ野村先生。幼い頃から自身の叔父と叔母の営む会社で製造業の現場を見て育った先生は、プロダクトデザインにおいて重要な、製造時の“型”の構造まで考えたデザイン構築が可能になったのだという。
デザインしているパーツが、実際にどのように工場で作られるのか、多くのデザイナーにはわからない。また、エンジニアは製造時に作りやすいようデザインを変えてしまう。そんな時、設計とデザイン、両方がわかる広い視野を持った人間が橋渡しをすることで、一貫性のあるものづくりが可能となるのだ。
世の中において、そのような人材に需要があるのは確実にも関わらず、なかなか現れないのはなぜか。それは今の日本の教育システムに問題の一端があるのでは、と先生は語る。「日本のものづくりが今低迷しがちなのは、みんなが専門家になりすぎているからだと思います。学生は受験を機に理系、文系とはっきり分かれてしまう。でも、出来ないなりに興味を持って学ぶことがとても大切なんです」特別な努力が必要なわけではない、ただ、自分のできないことを少し知ってみるだけで、専門家の間に建つ壁の上から全体を見渡すことができるのだ。
プロダクトデザイナーに求められること
先生の作成した作品の一つに、マイコンを用いたキャタピラ駆動の小さな車の教材がある。マイクロビットを使い、傾きセンサーと通信機能を駆使し、モーターを制御。コントローラーを傾けるだけで車体が動く仕組みだ。先生はこれを自分で考え設計、3Dプリンターで作成したという。「新しいものを作るのがプロダクトデザインの仕事。形だけ考えていても、新しいものは出来上がらないので、実際に作ってみないと。出来なきゃダメでしょ!って思います」。プロダクトに必要なのは、プログラミングの知識、簡単な算数、素材の知識、電気的な知識etc…そして最終的には美しく作るデザイン力も必要になってくる。プロダクトデザインは奥が深い、と野村先生は語る。
デザイナーはクライアントでは思いつかないアイデアを求められている、と先生。何かの専門、業界に染まってしまうとマンネリ化したアイデアしか出なくなってくるのだそう。「必要なのは、その分野の素人かつ、デザインのプロの思いつき。さらにプロダクトデザイナーならば、絵に描いた餅を食えるように、もしくは食える餅を描かなくてはいけない。それが社会で求められる力、社会実践力なんです」。
(株)ニッシンとの取り組み
野村先生は社会実践力育成プログラムにおいて、産学公連携PBLプログラム1((株)ニッシン)を担当されている。株式会社ニッシンと連携を図り、人の頭部を模した歯科研修生実習用のヘッドのデザイン提案について、学生がアイデアを展開した。「今回、授業のテーマにしたのは、様々な価値観を知ることです」。好きにデザインを描くと、必ず自分の癖が出てしまう。もちろん、名だたるデザイナーの中には“先生”と呼ばれ、その先生らしいデザインテイストを求めてクライアントから直接オファーが行くこともある。が、時代とともにテイストの流行も変わっていってしまうのが現実だ。「デザインは個人のテイストを前面に出していくものだと思っている学生が多いのですが、実際はデザインを依頼した側もよくわからなくて、なにが市場にマッチしたデザインなのかが求められているんです」。
ニッシンプログラムでは、分析マップを作り、漫画やアニメのキャラクターを写実的なのか、様式的なのか。また、リアルなのかデフォルメなのかを考え、マップに散りばめた。その中からいくつかのテーマのまとまりを作り、ターゲットコンセプトとして、スケッチを描いていく。そうすることで、個人の好みではない、自分の限界を超えたスケッチを描くことができるのだ。
「歯のモデルなのにヘッドデザインも作るのは、ニッシンさんからのご要望で、歯だけだと研修生はそれをものだと認識してしまうそうなんです。実際には患者さんを想定しているのに、平気で上にものを置いてしまったりね。口頭で注意することも可能ですが、できれば本人に直感的に感じてもらいたい。それができるのがプロダクトデザインの仕事です」。野村先生は今回のプロジェクトを通して、学生さんにプロダクトデザインの本質を学んでもらえたと感じる一方で、次はもう少し人数が増え、テーマの中で沢山のバリエーションが出たり、プロダクトデザインを専門としない学生にもぜひ参加してもらい、様々な視野からのデザインを見てみたい、と微笑む。「視野が狭いと、誰に対して自身の専門性を提供していけばいいのかわからない。自分の専門は持ちつつも、さらに広い視野を持って欲しいな、と感じます」。
産学公連携PBLプログラム1((株)ニッシン)レポート