米原 有二(YONEHARA Yuji)
国際文化学部 人文学科 日本文化専攻
伝統産業と大学
伝統産業実習は、地域文化との深い繋がりを持つことを目的とし、基礎教養として伝統産業を学ぶことができるプログラム。3ヶ月ほどの事前授業を経て、毎年夏に2週間、職人さんの現場に通勤する。「受け入れてくださる職人の方々には、学生をお客さんのように扱わないようにとお願いしています。学生さんにとっては少しハードな授業かもしれませんね」。受け入れてくれる実習先は市内を中心に30ヶ所以上。歴史の長い授業のため、代替わりをしている工房も多くあるという。「この授業を通して、若い人たちが伝統産業の魅力に気づき、関心を持ってくれるきっかけになれば。業界の活性化にもつなげたいですね」と笑顔を見せる。
国際文化学部の教員であり、かつ伝統産業イノベーションセンター長という顔を持つ米原先生。京都の伝統産業、伝統・地域文化を学生に教え、京都精華大学で約40年前から続く歴史ある伝統産業実習の取りまとめに力を注いでいる。
伝統産業実習の目的
授業では、学生に表現力を身につけてもらうことを一つの目標としている。職人教育を受けにいくのではなく、京都で育まれた卓越した技を持った職人たちと交流することで、「何か学び取ることが必ずあるはず」と米原先生。2週間の実習で、自分の作品を必ず一点作り、実習終了後に学内で作品の展覧会を開催する。京都精華大学は専攻が非常に多岐にわたっているため、映像専攻の学生が西陣織の職人を訪ねたり、漫画を学ぶ学生が陶芸の工房に行ったりするなど、必ずしも自分たちのスキルや能力に合った場所で実習を行うわけではない。しかし、「これこそ本当の学びだと感じるんです。上手にできるかどうかではなく、上手にできるように努力することが、学生にとって大きな成果につながるのです」。
出来上がってくる作品は様々で、形のあるものだけでなく、商品企画を考えたりすることもあるという。最近では、「こんな実習を学生さんにやらせてみたい!」というアイデアが会社や工房から提案されることもある。授業に参加したことがきっかけとなって、卒業後はそのまま実習先に就職する学生もいるそうで、「卒業生が後輩の面倒を見てくれたり、良い循環が生まれていると思います」。
伝統産業に触れる、ということ
「大学で伝統産業実習に取り組む意義は、自然の素材を扱う経験ができること」と米原先生は説明する。自然の素材にどのように寄り添い、どう扱うか。素材が自分の思い通りにならないという経験は得がたく、技術・慣れ・知識を超えた部分で、言語化できない貴重な体験であるという。「いつ、どこで、誰が作ったのか、というのが工芸品には要素として多く含まれていて、それは地域の魅力に直結します」。
竹林が豊かだから、漆が取れるから、土がいいから…。職人と触れ合い、会話することで、なぜその作品がそんな形をしているのか、なぜ一つのものを作るのに手間ひまをかけるのか、自ずと見えてくるはず。「それは学生さんにとって、すごく驚きだと思います。実習を終えた後、自分たちが何かを制作するときの視点や考え方に少しでも変化があれば、大きな収穫だと思います」。
卒業して10年20年と社会で生きていく中で、「この経験が未来へ進むための糧になっていると良いですね」と、米原先生は伝統産業実習の学びの成果に期待を寄せている。