SOCIAL PRACTICAL SKILL DEVELOPMENT PROGRAM

復元アートの世界を楽しむ

小田 隆(ODA Takashi)

マンガ学部 マンガ学科 キャラクターデザインコース 教授

小田隆先生

古生物に命を吹き込むイラストレーション

恐竜など絶滅してしまった古生物の姿を化石等の骨格標本から想像し、今にも動き出しそうなほど生き生きとしたとしたイラストレーションで描き出していく…。“Scientific Illustration”とも呼ばれているが、日本では体系的にそのスキルや知識を学べる大学はほとんどないという。

「正解のない世界」と小田隆先生。化石を見ただけでは、皮膚や目の色、肌の感覚などは分からない。例えば、二足歩行の恐竜はからだの構造が鳥類に近いとされているが、実際には鳥の尾は短く、大腿骨は地面と平行の位置でほとんど動かず、膝から下の部分を使って歩行しているのだという。一方、恐竜のほうは、ワニなどと同じように太い尾が長く伸び、大腿骨は垂直に立ち、股関節を使って足を動かしている。鳥でもなく爬虫類でもない…。そんな地球上に存在しないスタイルを持った生きものを精確に復元していくために、「古生物学や植物学、地理学など各分野のサイエンティストたちと対等な立場で、お互いの強みを生かして空白のパズルを埋めていく作業が必要」だという。小田先生の活躍の舞台は、博物館のグラフィック展示や図鑑の復元画、絵本のイラストなど、大学以外でも大きく広がっている。

ワニ

美術×解剖学で生み出されるリアリズム

私たちのからだは起伏に富んだ形をしている。例えば、腕を伸ばしたとき、足を曲げたとき、あるいは顔の表情を緩めたとき…、からだのいろんなところが盛り上がったり伸縮したりするが、一体どんな筋肉や腱がどのような動きをしているのだろうか? 古生物に限らず、人や動物のからだの構造を正しく理解し、より豊かな表現につなげていこうというのが、美術解剖学、つまり美術に解剖学を導入した概念だ。小田先生は今から20年ほど前に、日本ではそれほど一般的ではなかった美術解剖学の重要性に着目し、自身の制作活動や教育プログラムの中に積極的に取り入れている。

2023年2月に実施した「産学公連携PBLプログラム」では、大阪自然史センターと共同で、学生たちと一緒に動物の標本製作に取り組んだ。ロードキル(交通事故)などで不幸にして死んでしまった鳥やタヌキ、キツネなどを解剖し、その様子をスケッチで描き残し、骨や筋肉、腱など一つひとつ内部構造を理解し、最終的には骨格標本として博物館に保存する。「本や映像だけでなく、実際に目で見て手に触れて得られる情報価値は、たいへん大きなものだと考えています」。学生にとっては普段なかなか経験できない、より実践的かつ印象的な学びにつながっていくだろう。

「美術解剖学はあくまでも基礎スキルにすぎません」と小田先生。例えば、マンガやアニメ、ゲームの主人公を描くとき、あるいは何かクリーチャーをデザイン造形するとき、それが一見、荒唐無稽な存在だったとしても、例えば「手を動かせば、この筋肉が盛り上がるはず」「翼を広げれば、関節はこう伸びるはず」というからだの理屈に沿った動きや形、ポーズを表現できれば、架空の人物や生きものが急にリアリティを増し、多くの読者や視聴者に説得力を与えることができるに違いない。

「アカデミズムは社会の最先端であるべきだと思います」。今、市場にあふれている商品やサービス、技術はすでに周知されたもの、言い換えれば手垢がついていると言っていい。大学のシーズの中にはまだ実用性には至っていない、思いつきやアイデア段階のものも少なくないが、「アカデミズムの本質を見極め、社会に役立つ研究・教育成果を発信していくことが大切」と話す。イラストレーションとは「光を当てる」という意味があるという。小田先生が命を吹き込んだ生きものたちが耀きを放って、はるか古代のロマンへと私たちを誘ってくれる。

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