SOCIAL PRACTICAL SKILL DEVELOPMENT PROGRAM

体験から生み出されるフィクションの世界

おがわ さとし(OGAWA Satoshi)

マンガ学部 マンガ学科 ストーリーマンガコース

おがわ さとし(OGAWA Satoshi)

現場での実体験がリアリティを生み出す

エッセイマンガからSFホラーマンガまで多彩な創作活動に取り組むおがわさとし先生。「マンガは総合芸術」と話するように、現場に積極的に足を運んで、そこで暮らす人々や様々なモノ、コトと触れ合い、普段から絵や言葉など感性と表現力を磨くことを大切にしている。

以前、由岐神社の例祭「鞍馬の火祭」を見に行った帰りのこと。終電が出てしまい、誰もいない駅舎で一晩過ごすことになったが、物寂しくもありながら、どこか情緒あふれる月明かりや美しい虫の音色に心打たれて、「しめた!これはマンガにできる」と思ったという。こうした現場での貴重な実体験をスケッチ風に紹介した「京都 虫の目あるき/とびら社刊」は、観光ガイドブックには載っていない京都の新しい道草指南書として好評を得た。

体験から生み出されるフィクションの世界

「表現者にとって、リアリティを生み出すことはとても重要」とおがわ先生。フィクションだからといって、現実とあまりにかけ離れていたり事実と異なるような設定では読者は没入感を得られにくい。ストーリーマンガコースでは、人物クロッキーなど基礎技術を学ぶだけでなく、3年生では、京都精華大学に在籍する他の学部・学科、専門領域の教員を訪ねてインタビューを行い、その内容をもとに12ページ程度のマンガを描くというゼミ演習に取り組んでいる。陶芸、染織、グラフィック、映像…、誰がどのような道具や技術を使って、どんな作品を作り上げていくのか。今まで触れたこともない世界に飛び込んで取材をするのは、学生にとって決して低いハードルではないが、試行錯誤しながらも、「相手の思いを引き出し、それをアウトプットに生かすプロセスを経験することは、これから社会に必要とされる能力だと考えます」と笑みをこぼす。恋愛ものやSFものなど、おがわ先生も驚くようなストーリーに仕立てる学生も少なくないという。

好奇心から芽生える社会実践の力

昨年度開催された国内ショートプログラム(企業提案型)では、叡山電車(叡電)沿線の駅の特徴やその地域性を生かした商品開発の提案を行った。異なる学部・学科の学生が3~4人のチームを編成、「一人ひとりの興味や関心、スキルに基づいて、フィールドで現場体験を重ねることが大切」とおがわ先生。

例えば、一乗寺といえばラーメン街道だが、実際に班のメンバーが調査に出かけてみると、行列ができる有名店がたくさんあるのに、観光客向けのお土産やギフト商品が少ないと気づいた。そこで、湯船をラーメンのスープに見立てた入浴剤「ラーメンの泉」を提案。豚骨、鶏がら、醤油…、入浴剤をお湯に入れるだけで、自分がラーメンになった気分でお風呂が楽しめる。思わず誰かにプレゼントしたくなるような斬新なアイデアと言えるだろう。

また、八瀬比叡山口駅では、駅周辺にあるユニークな猫猫寺(にゃんにゃんじ)にちなんで、切るたびに愛らしいネコの絵柄が現れ、変化していく羊かんを提案。アニメーションコースの学生ならではのアイデアが光る商品で、羊かんを味わうだけでなく、まるでネコが動いているような目で見て楽しめる仕掛けが工夫されている。実際に商品開発まで行うプログラムではないが、最終日に行われた学生のプレゼンテーションでは連携先企業からたいへん評価が高かったという。

「いつでも好奇心を忘れないでほしい」とおがわ先生。世の中は盛りだくさんの興味にあふれている。マンガ家やクリエーターを目指す学生にとって、社会実践力育成プログラムの取組などを通して、豊かな個性を持った人たちと関わり、もっと専門外へ視野を広げてほしいと話す。「きっと人生を彩る力になると思います」おがわ先生の眼差しはどこまでもやさしい。

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