原 浩子(HARA Hiroko)
メディア表現学部 メディアイノベーション専攻 教授
キャリア・社会実践力育成科目部門長

世の中に「どんな職種」があるのか、学生の知識は乏しい
学生にとって、卒業後の就職、すなわち仕事選びは、自分のこれからの生き方を変える重大な分岐点となるだろう。厚生労働省が所管する独立行政法人労働政策研究・研修機構が2022年に改定した「厚生労働省編職業分類」によれば、日本国内には1万8725種類の仕事があるとされるが、その一方で多くの学生にとって、「どんな職種があるか?」の知識は、小学生のときにアンケートで答えた「なりたい職業」ランキングレベルに留まっているという。
もちろん、すべての職業を知る必要はないが、「世の中には多種多様な職業、つまり職種バラエティがあるということを、できるだけ早い段階で学生に伝えることも、大学の大切な役割だと考えています」と話すのは、2026年4月から新たにキャリア・社会実践力育成科目部門長を務める原先生。早い時期に内定を得た学生のヒアリングなどでも、「1年次、2年次生のときに、職業・職種についてもっと知りたかった」という意見が多く寄せられているという。
職業・職種に対する学生の知識が乏しいから、結果として自分が知っている有名な企業、無難な会社ばかりを選んでしまう。なかなか内定がもらえない、思った仕事内容と違う、やりがいを見出せない…。こういったミスマッチを防ぐためにも、「就社ではなく、本当の意味での就職を目指すべき」と指摘する。
大学の「学びが活かせる職種」は意外な企業・職場にある
一般的に、芸術系大学の学生が、大学での学びをダイレクトに活かせるような職業・職種は限られていると思うかもしれない。しかし、多様な学部・学科を持つ京都精華大学では、作品づくりやプログラミング、音楽や映像制作など「手技」を身につけた学生が多く、「就職活動におけるポテンシャルが高いと考えています」。
デジタルや生成AI等が社会に広く浸透し、消費者ニーズが大きく様変わりしつつある今、企業や自治体等が採用時に学生に求める人物像もこれまでとは違ったものとなっている。例えば、あるメガバンクではお客様に新しい金融体験サービスを提供できるUX(ユーザエクスペリエンス)デザイナーを積極的に採用しているという。また、自治体においても、デザイン・音楽・映像などの素養を養い、培ってきた思考を活かして行政に取り組む人材に期待が高まっている。金融機関の仕事はお金を取り扱うことだけではない。「大学で身につけた学びは新たなサービス、付加価値に転換できます。自分たちのスキルや能力は意外な企業・職場で発揮できるという意識を持ってほしいです」と原先生は力を込めて語る。
教員が学生に提案できる「キャリア・マッチング」とは?
京都精華大学には、豊富な経験、研究・教育実績を有する教員が多く在籍する。「学生のポテンシャルをいち早くキャッチアップできるのは、授業やゼミなどを通して最も身近に接している教員ではないでしょうか」。就職に紐づく科目は、教員の専門分野と必ずしも同じでないかもしれないが、企業等の採用トレンド、あるいは就職市場にアンテナを張り、「こんなクリエイティブな仕事がある!」「あなたの能力はこの職場で活かせる!」と学生にキャリア・マッチングを提案することで、職種バラエティを早期に届けることが可能となるに違いない。
これまで、全国各地の大学で多くの学生と接してきた経験を持つ原先生。「京都精華大学に赴任して感じたのは、学生たちの“羽根を広げる”ような雄大な着眼点と独創性。他大学の学生とは異なる、芸術系大学という枠に留まらない魅力があります」と話す。一方で、就職活動においては、自分たちのポテンシャルを相手に的確に伝えるスキルも必要だ。「広告会社のクリエイター出身の教員として、学生たちの伝える力を体系的に養っていきたいですね」。そう語る優しげな瞳の奥には、キャリア教育への熱い思いが滾っているようだ。
